福島県歯科医師会

福島民友 歯の健康相談
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3月23日掲載 矯正治療・抜歯について
歯並びとかみ合わせ改善

 「歯並びやかみ合わせを治療したいけれど、歯を抜かないといけないのだろうか」と不安に感じている人も少なくないと思います。
 治療を始める前には必ず検査を行い、歯並びやかみ合わせの状態のほか、歯列や歯茎、顎(がく)関節などの状態も調べます。歯の大きさや歯列、顎の大きさなどは人それぞれ違いがあるので、考えられる最良の歯並びとかみ合わせがゴールになります。
 最初に行う検査は、理想的な状態に近づけるべく、現実的に達成可能な目標を決めるためのものになります。歯並びとかみ合わせは薬で治すわけではなく、矯正装置を利用して治療するので、歯科医の力量が大きく関わってきます。
 矯正治療できれいな歯並びや、きちんとしたかみ合わせをつくることはできますが、抜歯が必要だったり、場合によっては治療期間が通常よりも長くかかることも予想されます。歯科医は矯正治療の良い面ばかりではなく、マイナスの情報も患者に伝えないといけません。そして治療を受ける人も十分理解する必要があります。
 抜歯する歯は、虫歯や歯周病でぐらぐらの状態ではなく、健康な状態の歯であることの方が多いので、何とか抜かないで治療することはできないかと考えるのも当然です。目標達成のため抜歯する方が、歯数が減ってしまうデメリットをはるかに上回ると考えられる場合には、抜歯して治療を行なう方法が選択されます。
 矯正治療で抜歯が必要になる症例の割合は、約7~8割と思われます。
 歯を抜かないで治療できる症例は意外と少ないといえます。
 もちろん、ボーダーライン上の症例もあります。その場合はそれぞれのゴール(予測の治療結果)の違いを理解した上で治療方法を決定することになります。
 きれいな歯並びときちんとしたかみ合わせで、美しい口元を目指しましょう。そして、これからの皆さんの生活の質を豊かにしてもらいたいと思います。

3月9日掲載 口腔ケアで命を守る
口の中清潔保ち肺炎防ぐ

 先日、桂宮さまが唾液などが誤って肺に入ることで起こる誤嚥(ごえん)性肺炎を防ぐため、気管をふさぐ咽頭閉鎖手術を受けられたと報道されました。
 誤嚥性肺炎とは、食事中や寝ている間に、唾液と一緒に細菌や食べたものがいつの間にか肺の中に飲み込まれて、発熱を繰り返してしまうものです。
 口の中を清潔にする口腔(こうくう)ケアは、細菌の感染による発熱が減り、肺炎予防に効果があることが確かめられています。
 口の中をきれいにすると口臭がなくなり、コミュニケーションもしやすくなります。また、味も分かりやすくなり、おいしく感じられ、食欲も出てきます。栄養状態が良くなれば、笑顔も増え体力も増します。
 高齢者や有病者は、抵抗力が少ないので、日ごろの口腔ケアは大切です。特に、夕食後(就寝前)の口腔ケアは重要です。寝ている間は口の中の細菌が繁殖しやすいので、その前にきれいにしておくことが効果的です。
 また、口腔ケアは細菌を減らすだけでなく、口の中を刺激し続けることで、口の周りのリハビリテーションにもなります。口腔機能がアップすることで、誤嚥は確実に少なくなり、感染症も減ります。
 全国的に高齢者の死因のトップは肺炎です。おいしく食事することができ、「さっぱりして気持ちがいい」という経験を通じ、口腔ケアの大切さを分かってほしいものです。

2月24日掲載 矯正歯科治療の開始時期
永久歯が出そろう前か後

 矯正歯科治療を希望する人の来院時期はさまざまです。小学1~6年ぐらいまでの混合歯列期(乳歯と永久歯が混合している時期)に来院する場合と、全ての永久歯が出そろう中学生以降の永久歯列期(13歳~成人)に来院する場合があります。
 まず、前歯が萌出(ほうしゅつ)開始する7~8歳ごろに歯並びが心配な人は、病院でのチェックをお勧めします。急ぎの治療ではありませんが、反対咬合(こうごう)(受け口…下顎が上顎より出ている)で、特に骨格性(顎骨の大きさ)に問題があるケースについては、将来的に顎の骨を削るなどの外科的な手術が必要となる場合もあるからです。手術を避けるため、小学校の低学年から治療の開始が必要な人もいます。
 埋伏歯(まいふくし)(骨に潜って出てくることができない歯)についても、犬歯が出てくる9歳ごろまでに精密検査をお勧めします。歯が出てこない場合は、顎の骨の中で歯と歯がぶつかり合っている可能性が高いためです。この状態で放置してしまったために、歯の根っこ部分が削られてしまっているケースもあります。
 重度の乱杭歯(らんぐいし)(ガチャガチャ歯のこと)や出っ歯などのケースは、全ての永久歯がそろう12歳以降に治療を開始する場合が多いです。将来的に口元のバランスなども考慮する必要があるので、顔の大きさがある程度成人と同じになったころに治療を開始します。12歳以降は、60歳ごろまで基本的に治療方法は変わりません。

2月10日掲載 糖尿病と歯槽膿漏
組織の炎症起こしやすく

 糖尿病は、体の栄養分である糖を体に取り込むためのインスリンという物質が、減少したり機能しなくなる病気です。
 糖が取り込まれないと、体を動かすエネルギーがうまく作れなくなり、体の調子を悪くするばかりでなく、血液の中に残った糖分が体の末端の部分に悪さをするようになります。その一つに歯槽膿漏(のうろう)があります。
 歯槽膿漏は、歯と歯茎の境目が汚れることにより、口の中での末端の組織である歯茎が炎症を起こす病気です。糖尿病になると、末端の組織の炎症を起こしやすくなり、治りづらくします。
 歯科領域で最も緊急性を要し、場合によっては入院しなければならない病気に重症歯性感染症という病気があります。歯槽膿漏や虫歯を放っておくと、ばい菌があごの周囲に広がり、場合によっては命にもかかわる重大な病気になります。急激に広がるような場合、コントロールされていない糖尿病が存在することもしばしばです。
 さらに最近では、歯槽膿漏が進むと、糖尿病を悪化させることが分かってきました。糖尿病と歯槽膿漏は密接な関係があり、歯槽膿漏を治療すると、糖尿病が改善するとも言われています。糖尿病の人は、口腔(こうくう)管理にも気を配りましょう。

1月27日掲載 スポーツマウスピース
オーダーメード けが予防

 スポーツ選手が装着しているマウスピース、最近目にすることが多くなったと思いませんか。彼らが装着しているのはスポーツマウスピースと呼ばれるもので、主に歯や顎、口の中を保護する目的で装着しています。
 マウスガードやマウスプロテクターとも呼ばれることもあり、装着することにより顎や顎関節への衝撃を和らげ、歯や口の中などのけがを防止します。また、しっかりかむことで集中力や瞬発力を向上させる効果があるとされます。
 現在、スポーツ界ではスポーツマウスピースの効果が注目されており、各種競技で装着のルール化や競技連盟や団体の推奨により、使用者が増加しています。
 スポーツマウスピースはスポーツ用品店などでも入手可能で、安価で調整可能なものもあります。しかし、フィット感が悪く口を開くと外れてしまう、呼吸しにくい、話しにくいなどの難点があるようです。
 そのため、トップアスリートのほとんどが、歯科医院で製作されるカスタムメード(オーダーメード)のスポーツマウスピースの製品を使用しているようです。カスタムメードスポーツマウスピースは、フィット感も良く使いやすく調整が施されています。歯や口の中のけがを防止する上でも、きちんとフィットしていることは重要で、その点からもスポーツマウスピースはカスタムメードが望ましいといえるでしょう。
 現在、スポーツを行っているあなた、スポーツマウスピースを使っていますか。まだならぜひ、歯科医院で相談してみてください。スポーツを行っている子どもにもスポーツマウスピースは有用ですので、お父さんお母さんから提案されてみてはいかがでしょうか。

1月13日掲載 虫歯予防とフッ化物
規則正しい食生活が大切

 虫歯はどうしてできるのでしょう。あらためて虫歯ができる過程を知り予防に役立てましょう。
 飲食物中の糖分を歯垢(しこう)に含まれる細菌が分解し、酸を産生します。そして、口腔(こうくう)内の酸性度がある一定以上(臨界pH)に強まると、歯からカルシウムなどのミネラルが溶け出し始めます。これを脱灰(だっかい)と呼びます。
 脱灰が進むと虫歯になってしまいます。しかし、唾液の中和作用(緩衝能)でミネラルが再び歯に沈着されてきます。これを再石灰化と呼び、これにより歯は自然に修復されることになります。歯の表面ではいつもこの脱灰と再石灰化が繰り返されているというわけです。
 虫歯は次のようになると発生します。
 ▼脱灰と再石灰化のバランスが脱灰に傾く。
 ▼糖分を含む飲食物を回数多く、または長時間にわたって取る(再石灰化の時間が少ない)。
 ▼歯垢がたくさんある(酸を産生する細菌がたくさん口腔内に存在する)。
 ▼唾液分泌の低下(唾液の浄化・中和作用が低下する)。
 一方、虫歯を予防するには、この逆をいけば良いことになります。
 ▼脱灰と再石灰化のバランスを再石灰化に傾かせる。
 ▼規則正しい食生活。
 ▼プラークの除去。
 ▼よくかんで唾液を分泌させる。
 間食の回数が多く(常に何か食べている)、口の中に停滞している時間が長い食べ物(あめやキャラメルなど)が好きな子どもは要注意です。
 ところで、どうしてフッ素は虫歯予防に効果的なのでしょうか。フッ化物には脱灰を弱め再石灰化を強める働きがあります。フッ素イオンの虫歯予防における作用には主に次の三つがあります。

 〈1〉石灰化の促進…初期虫歯の進行を止め、さらに健全な歯質へと修復します。また、唾液中の一定濃度のフッ素イオンは歯質を保護します。
 〈2〉耐酸性の向上…歯を形成するリンとカルシウムの結晶体であるハイドロキシアパタイトを耐酸性にし、脱灰から守ります。
 〈3〉抗酵素作用…細菌が持つ酵素の働きを抑え、酸の産生を抑制します。
 甘いおやつや飲物を取る回数を減らし、規則正しい食生活を心掛けることが大切です。そして、毎日のブラッシングを習慣にし、フッ素を上手に利用して虫歯を予防しましょう。

12月9日掲載 口腔ケア
 療養者らの歯磨きや治療

 「口腔(こうくう)ケア」という言葉を聞いたことはありますか。口腔ケアとは、口の中を清潔に潤った状態に保つことを目的として、主に施設に入所している人や、病気療養中(入院、在宅を含む)の人などを対象に行われる口の中のケアのことをいいます。
 口腔ケアは、大きく分けて「専門的ケア」と「一般的ケア」と呼ばれるものがあります。
 「専門的ケア」には、歯科医師や歯科衛生士らによって行われる、いわゆる歯科治療も含まれます。例えば、虫歯の治療や歯石を取る治療、歯周病の治療や管理などです。
 また、日々のケアの中でも、廃用症候群(使われなくなった機能が衰えていき、正常な機能や状態を保てなくなること)のために、能力が発揮できなくなり、荒廃がかなり進んでしまい、普通の歯磨き程度ではなかなか回復できないようなときにも、専門的知識や技術が必要とされることもあります。
 「一般的ケア」は、家族を含め、日々の介護に関わっている人などが行うケアです。例えば、毎日の歯磨き、洗口、義歯の清掃や消毒などが挙げられます。基本的には、自分の歯磨き(プラークコントロール)や義歯の手入れと、何ら変わるところはありません。
 異なるところは、「介護を受ける人の状態や能力、障害の程度などによって、その方法を工夫しなければならないことがある」といったところでしょうか。
 例を挙げると、寝たきりでなかなか歯磨きの姿勢を保てない人などの場合、姿勢のサポートが必要になります。また、口から食べることができず、廃用が進んでいる人には、たんの除去や保湿(口の中の潤いを保つこと)などを考えなければならない場合があります

11月25日掲載 永久歯生える時期
 歯並び注意深く観察必要

 永久歯が生える時期は、乳歯の場合と同様にかなりの個人差があります。約1年の遅れはしばしば見られますが、特に問題はありません。乳歯に重度の虫歯や外傷などがあった場合には、永久歯が生えてくるのが遅れます。
 乳歯から永久歯に生え替わる時期(5歳6カ月ごろから11~12歳)を「混合歯列期」といいます。下の前歯に続き上の前歯が生え替わる「交換期」では、4本の永久歯が扇形に開いた特徴的な歯列を呈することが多く、“みにくいアヒルの子時代(ugly duckling stage)”とも呼ばれています。
 その後の顎骨の成長や永久犬歯の萌出(ほうしゅつ)などに伴い、徐々に異常が解消されていくため、それほど心配はいりません。また、臼歯部は乳歯よりも永久歯の方が小さく、交換に伴い余剰なスペースが生じるため、このころにはかなり歯列は整ってきます。
 しかし、将来問題となる歯並びやかみ合わせの異常の前兆であることもあります。歯科医師と相談して注意深く観察していくことも必要です。
 混合歯列期は、小学校入学から卒業するころまでの時期とも重なり、精神発達や知的発達など、あらゆる面でまさに大人への適応の時期ともいえます。みにくいアヒルの子時代(混合歯列期)を経てどのような成鳥(永久歯列期)となるのか楽しみです。

11月11日掲載 歯や顎のために
 かみしめ癖、歯ぎしり注意

 歯や顎のために、「よくかんで食べましょう」といいます。その通りなのですが、勘違いされやすいのが食べていないときの「かみしめ」です。
 本来、人が安静にしているときは「安静位空隙(あんせいいくうげき)」といって、上の歯と下の歯が触れることなく少し離れているのが正常な状態です。
 忙しいときや大変なときに「歯を食いしばって頑張る」とよくいわれますが、食いしばり過ぎると、虫歯がなくても冷たいもので歯がしみる知覚過敏や歯が欠けるほか、詰め物やかぶせ物が取れたり、歯周病が進んだりといったさまざまな誘因にもつながります。
 かみしめ(クレンチング)や歯をカチカチ鳴らす(タッピング)、歯ぎしり(ブラキシズム)などをまとめて「パラファンクション」といい、同じような弊害があります。
 ストレスを軽減するものとして必要な面もあり、全てをなくすことはできませんが、かみしめる癖のある人は注意した方が良いでしょう。
 ただし、重いものを持つ場合や力を入れるとき、スポーツをするときなどは、かまないと体を壊したりする場合もあり例外です。また、歯ぎしりがある人は、かかりつけの歯科医院に相談してみるのもお勧めです。

10月28日掲載 矯正治療の目的
 口元のバランスも美しく

 歯並びやかみ合わせを矯正する治療も一般的になってきたようです。しかし、「治療期間が長くかかるのではないか」「装置(ブレース)が見えるのが気になる」など、なかなか治療に踏み切れず、躊躇(ちゅうちょ)しているという声も聞かれます。
 矯正治療は、基本的に削ったり、かぶせたりしないで、自分の歯そのもので治療を終えるところが大きな特徴と言えます。
 子どもの場合は成長発育期にあるので、状態により開始時期や治療方法が異なってきます。大人の場合は、虫歯や歯茎の問題がない時が開始時期となります。
 矯正治療に年齢制限はありません。歯と歯を支える歯槽骨、歯茎がしっかりしていれば治療は十分可能です。口元を気にせず思いっきり笑える、自信が持てることで仕事でもプライベートでも生活の質を豊かにできるのが歯科医療と言えるでしょう。これから社会に出て活躍する子どもの場合はなおさらです。
 矯正治療は、歯並びやかみ合わせを治すことだけではありません。口元のバランスを美しく整えるという大きな目的もあります。
 特に前歯の位置をどこに決めるかということは、口唇周囲の軟組織の外形に大きな影響を及ぼします。事前の資料をもとに上の歯が出ている人は上の歯を後退させる必要があります。また、下の歯が出ている人は下の歯を後退させるようにゴールを決めます。
 笑った時に見える歯茎の量も重要です。前歯の位置を前後に移動させるだけではなく、垂直的(上下)に移動させることで口元の印象がだいぶ変わってくるのです。
 歯並びだけでなく、前歯の位置と唇などの軟組織との関係を良好にすることで、自然で美しい口元が生まれます。

10月14日掲載 口腔ケアとは(下)
 自分の口の再チェックを

 皆さん、自分の歯の磨き方に自信がありますか。また、歯科医院で歯の磨き方を教えてもらったことがある人も、「私は大丈夫」と確信が持てますか。
 自信のない人や、歯の磨き方を教えてもらったことがないという人は、ぜひ一度、身近な歯科医院にご相談ください。
 「口腔(こうくう)ケア」は、「寝たきりの人の口の手入れ」や「自分でうまく歯磨きできない人のためのもの」といった感覚を持っている人が多いようです。しかし、実際は日々の歯磨き(ブラッシング、プラークコントロール)が基本なのです。
 少し想像してみてください。もし自分が介護を受ける立場になったときに、介護してくれる人が虫歯だらけだったり、口の臭いがひどかったりしたらどうでしょう。歯磨きの介助や食事介助などのときに、気持ちよく受け入れることはできるでしょうか。
 介護施設の職員の研修会などに参加したときには、最初に必ずこの話をすることにしています。健康で普通の生活ができている人の、少なくとも7~8割の人たちが歯周病(歯肉や歯を支えている歯槽骨という部分の病気)に罹患(りかん)しているといわれています。
 また、口腔ケアの基本はお口の中を清潔に潤った状態に保つことです。どんな人の口のケアをするにしても、まったく変わりません。寝たきりの人でも、口から食べることができなくなった人でも、歯があってもなくとも。まずは、自分の口の健康の再チェックを!

9月23日掲載 口腔ケアとは(中)
 口内清潔にして肺炎予防

 近年、老人保健施設や特別養護老人施設、病院などで、肺炎に対する予防や処置が重要視されるようになってきています。他の病気で入院(入所)していても、肺炎などの悪化により最期を迎える人が大変多い事が問題となっているためです。
 当然のことながら、病院などでは体力や免疫力が低下し、感染症(細菌やウイルスなどによって起こる病気)に大変弱く、いわゆる「感染症弱者」と呼ばれる人が多いのです。
 肺炎は、肺炎球菌などのいわゆる肺炎の原因と考えられる細菌の感染によるものばかりでなく、口腔内常在菌(こうくうないじょうざいきん)(口の中に普通に存在している細菌類)によるものが多いことも分かってきました。
 元気に生活している健康な人ではあまり問題にならないタイプの細菌でも、体力や免疫力が弱くなった高齢者などでは、他のさまざまな病気の原因になるといわれています。
 肺炎ばかりでなく、心内膜炎や糖尿病などの原因になることも分かっています。特に、歯周病や虫歯のある人は、その原因菌が口の中で増え、他の病気の原因になる危険性が増すことになります。
 それでは、日々の生活の中で、どのようなことに注意すればいいのでしょうか。まず、歯周病や虫歯をきちんと治療することです。身体的な都合で、歯科治療をできない人は、口の中をできるだけ清潔にし、潤いを保つことで、肺炎などを防ぐことができます。

9月9日掲載 口腔ケアとは(上)
 清潔で潤った状態を保つ

 「口腔(こうくう)ケア」という言葉は比較的新しい言葉です。高齢社会が進み、「介護保険」や「介護予防」などの言葉が一般化するとともに、口腔ケアという言葉も盛んに使われるようになってきました。
 特に、高齢者のための介護施設や高齢の患者が増えつつある病院などでは、「肺炎」の発生率が問題となり、その予防や改善の方法を考えなければならなくなってきました。
 肺炎の中でも、特に「誤嚥(ごえん)性肺炎」や「嚥下(えんげ)性肺炎」と呼ばれるものは、患者の口の中が汚れていたり、免疫力や体力が落ちてくると起こりやすくなります。口の中が汚れていると、食事時にむせたときなどに汚れた唾液が少しずつ気管に流れ込み、肺炎が起こりやすくなると考えられています。
 口腔ケアに関する本を開いてみると、まず「口腔ケアとは…」などと、口腔ケアの定義のようなことが、必ずといっていいほど書かれています。その内容があまりに難しく、私たち歯科医師でさえ、「口腔ケアっていったい何だろう」「いったい、何をどうすればいいんだろう」と悩んでしまうことさえあります。しかし、実はそれほど難しいことではありません。
 簡単に言ってしまえば、「口腔ケアとは、口の中をきれいにして、潤った状態に保ち、本来の口の役割をきちんと果たせるようにすること」です。
 さまざまな原因、理由によって、口の中が正常な状態を維持できなくなり、潤いもなくなり汚れてしまいます。また、口から食べることさえままならなくなってしまっている人たちも増えています。当然、そのような人たちは肺炎も起こしやすくなります。このような状態にならないように、少しでも改善するための手助けが「口腔ケア」なのです。

8月26日掲載 誰でもできる“お口のケア”
 1日4回のブラッシング

 歯を失う原因のほとんどは、むし歯と歯周病です。いずれも感染症ですので、原因(歯垢(しこう)など)を取り除く事が大切です。
 歯科衛生の統計では、自分の歯が20歳で28本、50歳では23本残る結果になります。20歳から50歳までの30年で5本なくなるわけです。50歳から80歳の30年では18本失っています。つまり、50歳から急激に歯を失う事になります。逆にいうと、50歳まではどんな生活習慣でも、歯はかなり保存されます。
 むし歯と歯周病は生活習慣病ですので、長い間の生活習慣を変えられないことが原因になるのです。昔は「人生50年」でした。50年もてば問題ありませんでした。しかし、現在は「人生80年」時代です。健康な生活を送るには、歯を残すことがとても大切です。
 一方、健康な歯と比較した総入れ歯の噛(か)む能力は、17~25%しかありません。歯を失う事は、噛んだり食べたりすることが難しくなるだけでなく、全身の健康にも影響があります。
 歯を残す一番のポイントは、1日4回ブラッシングをする事です。これでかなり保存される可能性が高まります。また定期的にかかりつけの歯科医へのメンテナンスも大切です。さらに介護を受けて、自身でブラッシングできない時は、介護者の人が無理のない範囲で食後に限らず、まず1回から始めてはいかがでしょう。
 お口のことで心配な事がありましたら、かかりつけの歯科医や県、地域の歯科医師会へご連絡ください。

8月12日掲載 入れ歯の定期点検
 顎の関節や歯の障害防ぐ

 失われた歯の代わりに、食べ物を細かく砕いたり、見た目や発音機能を維持する入れ歯。
 私たちの高寿命を支えてくれている陰の立役者です。動物は歯が駄目になった時が寿命ですが、人は入れ歯を発明したため、歯がなくなってしまっても、食物をかみ砕き、生きるために必要な栄養を取ることができます。
 そんな、私たちの今の暮らしを静かに支えてくれている入れ歯ですが、あなたが今使っている入れ歯は、いつ定期点検しましたか? 車に定期点検が必要なように入れ歯にも定期点検が必要なのです。
 部分入れ歯のあなた。入れ歯が外れないように固定してある針金が広がって緩くなってきていませんか? 針金を使った部分入れ歯は使用しているうちに必ず緩くなります。緩いまま使っていると入れ歯が動いて食事がしにくいばかりか、残っている歯に負担が掛かり歯が駄目になったり、入れ歯の下の歯茎(歯肉)がどんどん吸収して、より一層入れ歯が合わなくなってしまいます。
 総入れ歯のあなた。緩くて外れることが多くなっていませんか? 人工の歯がすり減ったりしていませんか? 合わないまま使っていると、日常生活に支障を来すだけでなく、極端にすり減ったままの入れ歯を長期にわたって使っていると、顎の関節に障害を起こしたりします。
 入れ歯の定期点検を行うことで、問題を未然に防ぐことができます。一番良いのは月に1度、定期点検に歯科医院へ通院することですが、なかなかそうもいかないという人でも、半年に1度くらいはかかりつけの歯科医院へ行って入れ歯の点検をしてもらいましょう。今の不具合もほんの少しの調整で直るかもしれません。

7月22日掲載 混合歯列期の注意点
 永久歯の仕上げ磨き重要

 小学生の子どもがいる保護者の皆さん、お子さんの口の中に乳歯や永久歯が何本あるかご存じですか? 学童期(小学生)の口の中は乳歯から永久歯への生え替わりの時期で、混合歯列期と呼ばれています。
 3歳前後で生えそろった乳歯は、6歳くらいになると下の前歯から永久歯に交換が始まります。同時期に、乳歯の奥歯(乳臼歯)の後ろに6歳臼歯と呼ばれる永久歯の奥歯も生えてきます。低学年のこの時期には前歯の生える位置や方向の異常、上下の歯の位置関係に注意するとともに、生える途中や生えたばかりの永久歯は虫歯になりやすいので、保護者による仕上げ磨きでしっかりと汚れを落とすことが重要です。
 生えたばかりの歯にはフッ化物を塗布することで歯の表面を強化する効果も期待できます。
 また、乳歯の前歯が抜けた後の隙間に舌を入れたままにしたり、常に口で呼吸する習癖がないかどうか注意が必要です。
 9~10歳くらいになると乳臼歯の交換が始まり、15歳くらいで全ての乳歯の交換が終了します。乳臼歯が虫歯などの原因で早期に脱落してしまうと、6歳臼歯が前方に移動してしまい、乳臼歯の下から生えるはずの永久歯の生えるスペースが足りなくなってしまうことがあるので注意が必要です。高学年になっても週に1回くらいは仕上げ磨きをして磨き残しのある場所を見つけてあげましょう。
 この他、初めから永久歯の数が少ない先天的欠如や、過剰歯と呼ばれる余分な歯が永久歯への正常な交換を邪魔するような症例もまれにみられます。
 乳歯から永久歯への交換の時期は個人差があるため、前述した交換期が2年前後ずれる場合もあります。
 乳歯がすべて交換するまでは保護者がしっかりと見守ってあげて、トラブルを早期発見・予防してあげたいものです。

7月8日掲載 矯正治療開始時期について
 早期発見へ専門医相談を

 Q 矯正治療はいつごろから始めたらよいですか?
 A 治療開始時期は、乳歯列期(6歳以下)、乳歯と永久歯の混合期(以下混合期・7~10歳)、永久歯列期(11歳以上)に大きく分けられます。

 Q 乳歯が残っている時期から始めるのですか?
 A 矯正治療は永久歯がそろってから始めるものと思われていますが、歯並びの状態や程度によって開始時期が各個人で異なります。
 混合期は、前歯のねじれや乱ぐい歯の相談が多い時期ですが、顎の骨の成長を利用した矯正治療が行いやすい時期でもあります。この時期の不正を放置しておくと、顎の発育に障害を来すことがあります。この結果として永久歯列期に八重歯や乱ぐい歯が発生しやすくなります。
 矯正治療を混合期に開始すると、それらのことを回避でき、歯を抜く可能性が低くなります。永久歯列期では顎の成長を利用することができないため、上下左右の小臼歯4本を抜いて治療するのが一般的です。

 Q 早く始めると歯を抜かなくても治療できるのですか?
 A 状態によりますが、歯を抜く可能性はかなり低くなります。また、混合期の矯正治療は部分的な装置や取り外しができる装置で行うことが多く、永久歯列期に、本格的な矯正治療を必要としない場合もあります。

 Q 早期発見・早期治療が重要なのですね?
 A 矯正治療は、いつからでも開始できますが、最適な時期というのは各個人で異なります。専門医に相談して、適切なアドバイスを受けてください。

6月24日掲載 おいしく食べるために
 舌の汚れを定期的に取る

 食事をおいしいと感じるのは健康な証拠です。昔食べておいしかった記憶、好きな人と一緒の食事、すてきな音楽や雰囲気など、人は五感を使って自分なりの「おいしさ」を持っています。
 人が味を感じるときには、甘味、塩味、酸味、苦味、うま味の5種類が基本的な味で、これらが微妙に組み合わさって、味を感じるといわれています。これらの味を感じる場所が、人間の口の中や喉にいくつかありますが、その多くは舌にあり、食べ物を口に入れ、かみ、唾液と混ぜ合わせることで、舌で味を感じています。
 そのため、よくかめるように、自分の歯や入れ歯の手入れをしっかり行うことは、おいしく味わって食事を取る上でとても大切です。年齢を重ねると舌で味を感じる働きが鈍り、徐々に味を、特に塩味を感じにくくなるといわれています。
 いくつかの原因はありますが、舌の表面に付いた汚れを取り除くことにより、塩味と酸味が改善されるようです。舌をあまり強く磨くと傷ついてしまうので、歯ブラシで舌の表面の汚れを取るときには、一度に全部取るのではなく、毎日歯磨きの最後に定期的にブラッシングをしましょう。
 お口のことで心配なことがありましたら、かかりつけ歯科医や県歯科医師会、地域の歯科医師会、保健センターなどへご連絡ください。

6月10日掲載 子どもの外傷歯
 万一のとき早めの受診を

 子どもは予想もつかないけがをしてきます。歯科にも、ぶつけた、転んだという子どもたちがやって来ます。年齢はさまざまで、1歳前から小学生、大人も来院します。
 このような場合、ほとんどは上の前歯が外傷を受けています。来院すると、まずは歯が割れていないか、出血はどうかを診ます。ぶつけた場合は、一時的にぐらつくことが多いのです。エックス線撮影し、歯根にひびや破折がないかを確認します。明らかに破折が認められる場合には抜歯となることもあります。
 歯が欠けていても神経を残せる場合ば、欠けた部分を補填(ほてん)して治します。歯の欠けた部分が大きく、神経を取らなくてはいけない場合もありますが、乳歯の神経を取ったからといって永久歯に影響することはありません。
 後日、歯の根元の歯肉が腫れたり歯の色が変わってきた場合、ぶつけたときの衝撃で自然に神経が死んでしまうこともあります。その場合、神経の治療が必要になります。ぐらついている歯は歯科用接着剤で両側の歯と固定することもあります。
 乳歯が外傷を受けた場合、後続の永久歯に影響がないかと心配する保護者も多くいます。外傷を受けた時の年齢や力の加わった方向にもよりますが、永久歯がすぐそこまで生えてきている場合は、永久歯の色が変わることがあります。
 外傷を防ぐことは難しいですが、万一外傷を受けたときは、見た目には問題がなくとも早めの受診をお勧めします。(県歯科医師会)

3月11日掲載 妊娠中の歯科治療
 エックス線への心配不要

 妊娠中に歯が痛くなったり、歯肉が腫れて困ったことはないでしょうか? 治療に対する不安や恐怖心から受診を控えてしまう方もいるようですが、妊娠安定期で中毒症の心配がなければ、通常の歯科治療を行うことは何ら問題ありません。ただし、妊娠の初期は薬などについての注意が必要ですし、出産間際は治療時間が長引くと母体への負担が大きいため、短時間での処置が望まれます。
 よく聞かれるのはレントゲンについてです。一般の歯科治療でのエックス線の放射線量は、通常の生活をしていて1年間に人体が浴びる自然放射線量と比べても微量であり、胎児への影響は無視できるレベルです。従って正しい診断・治療のために必要最小限のエックス線撮影をすることに心配する必要はありません。
 また、歯科治療時の局所麻酔は通常の使用量では胎児に悪影響を及ぼす心配はないので、痛みによるストレスが懸念されるときは、局所麻酔を使用して無痛治療をした方が良いでしょう。
 内服薬については、基本的に妊娠中、特に妊娠初期は胎児の器官が形成される時期であるため、使用しないことが望まれます。ただし、薬を使用しないことで母体に悪影響があると考えられる場合(腫れて痛みがひどいようなとき)には、胎児への影響が少ない薬剤を内服して症状の改善を優先させることも考えます。
 このほか、歯科治療で使用する薬や材料についてはいずれも微量であり、詰め物など長期間口の中に残っているものについても安全で、胎児や母体に問題はないことが分かっています。
 出産後は赤ちゃんの世話などで妊娠中よりも母親が自分自身のことを心配する余裕がなく、自由な時間も取れなくなるといった話をよく聞きます。妊娠中にお口の中の問題を解決し、安心して出産に臨まれてはいかがでしょうか。

2月25日掲載 歯並びの相談
 よく話し合うことが大切

 Q 矯正歯科治療を始めるまでの流れについて教えてください。
 A まず、最初に電話などで予約を取って、受診します。そこでは、患者さんが一番気になっているところや、どこをどう治したいのか、などの希望を聞きます。こちらから見た治療の方向と、患者さんの希望が違っていると困るからです。そこでよく話し合うことが大切です。そして、歯並びのチェックが済んだら、治療にかかるおおよその期間や費用について矯正歯科治療の概略を説明してくれます。
 Q この初診の段階で疑問や不安を抱いていれば、相談や質問をすればいいんですね。
 A そういうことですね。それから検査を希望すれば、顔や口の中の写真、レントゲンや歯型をとります。セファロと呼ばれる、顔の形と歯、骨の位置が同時に分かるレントゲンを撮ったりもします。
 Q 相談から診断までかなり時間がかかるのですね。
 A そうですね。一度治療を開始すると、お互い長いお付き合いになりますので、じっくり話し合う必要があります。近年では、セカンドオピニオンを進める医療機関も珍しくありません。
 Q セカンドオピニオンについて教えてください。
 A これは、最初に相談した医師とは別の医師(別の医療機関)の意見も聞いて治療方法を聞くということです。先生の考え方によっては、治療の開始時期や治療方法についても大きく異なるからです。
 Q なるほど、治療方法は常に一つとは限らないので、複数の先生に相談をすることも大切なのですね。

2月11日掲載 かぶせ物の材料は何がいい?
 特徴を知り、合ったものを

 かぶせ物の材料は大きく分けて金属、プラスチック、セラミック、ハイブリッドセラミックに分けられます。それぞれに利点、欠点があるため、個々人、部位によりどれを選択するかは、歯科医でも悩むことがあります。
 保険が利く金属は、天然の歯よりかなり硬く、かみ合わさる歯をすり減らしてしまう半面、丈夫さ、費用の点でメリットが大きいです。
 プラスチックは、比較的低価格で、入れたときの見た目の良さで優れますが、天然の歯より軟らかで、すり減りやすく、黄ばみ、黒ずみやすいということがあります。
 セラミックは、天然歯に近似した色つや透明感が長期間持続します。表面はガラスのようにつるつるで汚れが付きにくく着色もしませんが、天然歯よりは硬く、わずかにもろい性質です。
 ハイブリッドセラミックは、セラミックにプラスチックを混ぜた材料で、セラミックに近い性質を持ちます。透明感、変色の点でセラミックより劣るものの、ちょうどいい硬さで割れにくくかみ合う歯に優しい利点があります。
 このような特徴を考慮し、歯科医とともに自分に合った材料を選ぶのも楽しいものです。服を選ぶとき、見た目、生地の丈夫さ、価格で検討するのと同じです。一概にどれが一番でなく、あなたがいいと思う材料を選ぶのが一番ではないでしょうか。

1月28日掲載 味覚障害
 亜鉛欠乏や口内異常原因

 最近、「食事がおいしくない」「味がよくわからない」などの症状の方が増えています。
 もともと高齢者に多く見られましたが、食生活の変化から、若い人にも見られるようになってきました。食べ物を口にしておいしいと感じるのは、視覚、嗅覚、口当たり、そして味覚の情報がそれぞれ脳に伝わることにより起こります。
 中でも味覚は重要で、舌や口の中の粘膜上にある「味蕾(みらい)」という器官の味細胞と味の成分が反応することにより味を感じます。そのため、この部分に異常が起こると、味覚障害が起きやすくなります。
 主な味覚障害の原因としては、次のようなものなどがあります。
・栄養素の一つである亜鉛の欠乏
・薬の影響
・全身疾患
・「口腔(こうくう)乾燥症」などの口の中の異常
・ストレスなど心因性のもの
 中でも偏食や無理なダイエット、ファーストフードの取り過ぎによる亜鉛の欠乏が、最近、特に問題になっています。
 亜鉛を多く含む食品には、「干ししいたけ、牡蠣(かき)、大豆、牛肉、レバー、そば粉、抹茶、ココア」などが挙げられますが、味覚障害に限らず、食品をバランスよく取ることが重要です。
 食事をおいしくいただくには、よく噛(か)めて、よく味わえなければいけません。
 もし、味覚に異常を感じたら、かかりつけの歯科医に一度ご相談ください。

1月14日掲載 総入れ歯が合わない
 定期的な手入れで快適に

 総入れ歯の悩みといえば、やはり「痛い」「噛(か)めない」ということです。部分入れ歯と違ってどこにも引っ掛けず、軟らかい歯茎の上に乗せて使う総入れ歯は、吸盤のように歯茎にくっついてくれないと、噛むたびにずれて痛みます。
 そこで歯科医師は、歯茎と顎の骨の状態、そして入れ歯を手掛かりに、問題を解決すべく奮闘するわけですが、総入れ歯の悩みの原因は一見どれも同じように見えて、実は患者さんの刻々と変化しているお口の状態や、その入れ歯と患者さんのお付き合いの歴史などによって大きく異なってきます。
 入れ歯は、患者さんの慣れるための努力と、歯科医の調整という相互の協力によって、実際に使えるものへと育っていきます。調整がうまくいって今はよく噛めても、患者さんのお口は自然に少しずつ変わっていきます。顎の骨が痩せたり、歯茎や頬の筋肉が痩せたりと多様な変化が起こります。また、入れ歯自体も変わります。道具ですから毎日使って入れ歯がすり減ったり材質が劣化したり消耗していきます。
 入れ歯が緩んでも我慢してそのまま使っていると、ついにはどの位置が正しい噛み合わせなのかすっかり分からなくなったり、顎の骨がひどく痩せてしまったり、その後の入れ歯とのお付き合いが難しくなってしまうことがあります。
 そこで、問題を早期に発見し、早期に対応するために、ぜひ3カ月から半年に1度、歯科医院の定期的なメンテナンスにおいでください。顎の骨の変化、入れ歯の状態、噛み合わせのチェックなどを受けていただきたいのです。古い入れ歯が簡単な修理で快適な入れ歯に生まれ変わるケースもあります。おいしく食べられるお口を一緒に守っていきましょう。

12月3日掲載 フッ素
 洗口液や塗布で虫歯予防

 フッ素という名前はホタル石(フローライド)に由来し、燃やすと青白く光ることからその名がついています。フッ素といえば、鍋やフライパンのコーティングを思い出しますね。
 また、虫歯予防のために、歯科領域でも使われていることをご存じの方も多いと思います。一番身近なところでは、歯磨き剤への配合です。約9割の歯磨剤に使われ、磨くごとにフッ素が歯に触れ、虫歯になりにくくなります。
 歯科医院で購入できるフッ化物洗口液(ぶくぶくうがいができる4歳前後から使用可)もお勧めです。安価ですし、継続して洗口することでかなりの予防効果が得られます。
 年齢を問わず使用できますが、子どもの方が歯が柔らかくフッ素を取り込みやすく効果が高いです。
 歯科医院で塗布する高濃度のフッ素もあります。歯のクリーニング後に塗布してもらうとより効果的です。
 ごく一部で、フッ素は毒だという意見を耳にしますが、通常の使用量では、全く問題なく、歯を守るメリットだけです。
 アメリカの人口の約70%は、水道水に含まれるフッ化物を調整して、フッ素を摂取できるようになっています。それに比べ日本は、フッ素の応用に関して遅れていますので、積極的にフッ素を利用し歯を守りましょう。

11月19日掲載 口腔ケア
 介護領域で重要性見直し

 「口腔(こうくう)ケア」という言葉をご存じですか? 口腔ケアと聞くと口の中をきれいにする(磨く)ことと想像するでしょう。
 口腔ケアとは主に、老人介護施設や居宅介護の現場で使用される言葉で実際、行われています。口腔ケアを行うことでQOL(quality of life)=生活の質=の向上を目指す目的の下、ただ口の中をきれいにする(磨く)だけではなく、虫歯や歯石の除去、不適合になった入れ歯の修理、清掃、高齢に伴う唾液(だえき)の減少への対応、嚥下(えんげ)や咀嚼(そしゃく)機能の改善などさまざまな内容が含まれています。
 また、口腔ケアを行うことにより誤嚥(ごえん)性肺炎を防ぐことができます。以前は、あまり口腔ケアは重要視されていませんでした。なぜなら口の中が磨かれていなくても命には別条ないと考えられていたからです。しかし、高齢化社会となり介護領域が注目されるようになった近年、口腔ケアの重要性が見直されてきました。その代表例が「誤嚥性肺炎」です。
 老人性肺炎を起こした人の多くは、寝ている間に通常食道へ流れていく唾液が何かのはずみで肺に流れてしまったときに起こるものです。口の中には多くの口腔内細菌があり、これらが呼吸器の奥深くまで入り、かつ抵抗力が低下している場合には肺炎による生命の危険が非常に高まります。肺炎を繰り返す場合には、口腔内が不衛生であることが考えられます。
 口腔ケアを行うことにより、誤嚥性肺炎に関連する発熱と肺炎および死亡者数が減少するということが近年報告されていることから、ますます質の高い的確な口腔衛生の管理が求められることでしょう。

11月5日掲載 子どもの食べ物
 発達・成長に合わせ選択を

 最近、あまりよくかまずに軟らかく食べやすいものを好む子どもが増えています。
 乳歯列期に軟らかいものばかり食べていると偏食になり、歯並びも悪くなります。成長期に、ある程度の硬いものを食べてあごの筋肉を発達させておかなかったことがその原因の一つかもしれません。 
 しかし、それ以前の乳児期の咀嚼(そしゃく)力が十分発達しないうちに硬いものを食べさせると、かえってかむことができなくなることがあります。
 小児の咀嚼の発達は、かまないで飲み込むゴックン期から、プリンやお豆腐など舌でつぶれる程度のものが食べられるモグモグ期、そしておかゆやバナナなど歯ぐきでつぶせるものが食べられるカミカミ期と順に進んでいきます。この発達段階に合わせて食べると咀嚼力が培われるのですが、硬過ぎる離乳食では逆効果です。
 基礎力がないままに硬いものを食べると丸のみすることになり、かむ練習ができないまま成長してしまうのです。ですから乳臼(にゅうきゅう)歯(し)が生えそろう2歳までに発達に合わせて食べ物を与えることが大事です。
 子どもの咀嚼の発達段階は唇の動きを観察すると分かります。ゴックンしている時期はほとんど動きませんが、カミカミ期になると、唇を片方に曲げて食べるようになります。2、3歳になってもまだ上手にかめない場合は年齢に関係なく離乳食に戻すのも一つの方法です。かみ応えのある食品は乳歯が生えそろってからでもいいでしょう。
 また、乳歯が生え替わる時期は咀嚼効率が落ちるので、食べ物や食事時間にも配慮が必要です。

10月22日掲載 口腔がん健診
 口内炎、長引くなら受診を

 がんは今や日本で発症する疾患の中で最も多い疾患といわれています。口腔(こうくう)がんの患者さんの数や死亡者数も増加の一途をたどっています。患者さんの数の増加は、日本における平均寿命が長くなり、超高齢化社会を迎えたことに一因しているともいわれています。本県も例外ではなく高齢化社会が進んでいる県の一つで、ますます口腔がんが増加するものと予想されています。
 口腔がんに対する対応として最も重要なのは、他のがんと同じく早期に見つけることです。早期がんのうちに治療を受けると、進行したがんと比較して予後は良好で、5年生存率は90%以上ともいわれています。
 従来より、歯科医師会などの教育活動により、診療所の歯科医師の診断力が向上してきました。さらに最近では、歯科医師会を中心に口腔がん健診の事業を促進し、口腔がんの早期発見に努めています。
 口の中のがんの特徴は長引く口内炎です。2週間以上、口内炎が消失しない場合は、お近くの歯科医院を受診するか、各地域で行われている口腔がん健診などを積極的に利用してみましょう。
 口腔がんで命を失わないために、歯科医師と地域住民のネットワークが必要です。

10月8日掲載 お口のキュアとお口のケア
 おいしく食べるために

 「食べることは人にとって単なる本能的な行為ではなく、より良く生きたいと願う生活の質、生きる意欲の向上につながり、生きる喜びとなる」。いわき食介護研究会の故市川文裕代表の言葉です。
 誰でも自分の歯でおいしく食べたいと思っています。しかし高齢になるに従い、歯に関する悩みを抱えている方も多いと思います。
 病気やけがのために、在宅で寝たきりになった要介護者にとっては、さらに深刻で、後遺症による手のまひや口の機能の障害、かむ力の衰え、飲み込みが悪くなるなど、自分の力で食事をすることが困難になってきます。
 その上、歯が痛かったり、歯ぐきが腫れるなど、お口のトラブルがあると食欲も低下し、全身の健康も損なわれることにもなりかねません。寝たきりになってしまっても、健康を維持し、自分の歯で食べられることは大事なことです。
 歯ブラシの大きさ、硬さはいかがでしょうか。場所によっては、補助的な歯磨き用具を使うことも必要です。
 歯ブラシが使えないときには、巻き綿棒や指ガーゼで、口の中の汚れをふき取ることも大事です。
 「虫歯がある」「歯ぐきが腫れた」「入れ歯が壊れた」などの症状がありましたら、かかりつけ歯科医院へ。
 通院の困難な方は、かかりつけ歯科医院や県歯科医師会、地域の歯科医師会、保健センター、保健所などにお問い合わせください。

9月24日掲載 口唇口蓋裂
 系統的な治療が必要に

 口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)とは、唇(口唇)や口の中の上ぶたの部分(口蓋)に裂ができる病気です。500人に1人の割合で生まれるといわれています。
 以前は、裂を閉じるだけの治療が主でしたが、現在はさまざまな職種が連携しながら治療に当たっています。その結果、審美的(見た目)な完成度も高くなり、リハビリメーク(一連の治療終了後の専門的な化粧)により、瘢痕(はんこん=傷あと)も分からないほどになっています。
 治療は裂の程度によってさまざまですが、一般的な流れは、以下の通りです。生後半年ぐらいに口唇裂の手術。生後2年前後で口蓋裂の手術。言語を獲得する時期から言語治療。齲蝕(うしょく=虫歯)などの管理を小児歯科で行い、歯列不正が生じた場合には混合歯列の時期(乳歯と永久歯が混在している時期)から矯正歯科(歯並びの治療)。永久歯に生え替わり、歯の足りない部分の補綴(ほてつ)処置(さし歯やブリッジなど)。その間、適宜、形成外科や口腔(こうくう)外科で修正手術が行われます。
 治療は生後直後から成人するまで継続的に行われるため、最も重要なのは中断しないことです。そのためには、かかりつけの歯科医院を持ち、病院歯科口腔外科などで一貫した治療のマネジメントを受けることが必要です。

9月10日掲載 宇宙から学ぶ
 虫歯を防ぐ唾液の働き

 帰還した宇宙飛行士の骨の密度は成人の骨の密度に比べ15%近く減少し、骨粗しょう症と診断された高齢女性に匹敵する値だったという報告がありました。原因は宇宙には重力がなく人間は浮いている状態になり、骨に負荷がかからず長期間寝ている状態に等しいためといわれています。
 つまりカルシウムやミネラルの不足、ホルモンやタンパク質の低下だけで骨がもろくなるのではなく、骨に負荷をかけない状態でいることが一番大きな要因だといえるでしょう。今まであまり運動していなかった方でも歩くことから始めれば重力がかかり負荷に耐え、骨を作る骨芽細胞を活性化し、骨量や骨密度を増加させていくのではないでしょうか。
 また口腔(こうくう)内関連でいうと、宇宙の無重力状態では地上に比べ、虫歯菌(ミュータンス菌)が推定40~50倍以上に増えることが分かったそうです。これは、歯から虫歯菌を洗い流す作用のある唾液(だえき)が、宇宙では口腔内で流れが変化するためとみられています。
 一方、地上のわれわれに関していえば、就寝中に唾液の分泌量が減るため、起床時には虫歯菌が夕食後の30倍にも増えるという報告があります。夕食後、特に就寝前にブラッシングをすると虫歯を予防できるということは、理にかなっているといえるでしょう。

8月27日掲載  最先端治療と最善の治療
 「歯科医との相談が大切」

 近年、情報社会の発達で、最先端の歯科治療法を目にする機会も増えてきました。失われた歯や、歯周組織(歯を支えている骨や歯肉など)を特殊な材料や薬剤を用いて再建、再生させる技術で、例えば、人工歯根(インプラント)、歯槽骨再生療法などです。
 かけがえのない歯や歯周組織が失われてしまったとき、これらの技術は起死回生の手段となり素晴らしい効果を期待できる場合もあります。ただ注意すべき点は、万能ではないということです。
 例えば、患者さんの中には歯がぐらぐらで、歯の周りの骨がほとんどないような状態でインプラントを希望される方もいらっしゃいますが、成功率が低く手術が不可能なケースもあります。このような場合は、インプラントより従来法のブリッジや、取り外し式の入れ歯の方が、後々の融通性も利きやすく最善の歯科治療法といえることが多いのです。
 ただ、個々人によって何を望まれるかはさまざまです。予後に不安があってもインプラントをやってみたい場合、その方にとって最善かつ最先端の方法なのです。
 つまり、患者さんの望むものが最善であり、歯科医が主観的に考えた方法と必ずしも一致するとは限りません。予後や費用、治療期間、メリットなどを考慮し、歯科医とよく相談し自分に合った最善の方法を見つけましょう。

8月13日掲載  処方薬がある場合
 「必ず歯科医にも知らせて」

 患者さんの中には数カ所の診療科に通院し、いろいろな薬を処方されていても、「これは歯科とは関係ない薬だ」と自己判断して治療開始前に申し出ず、後になって「実はこういう薬を飲んでいるんです」と言われる方がいます。
 確かに歯科治療に支障のない薬も多いですが、薬同士の飲み合わせがあったり、その薬を処方されていることで、患者さんに対する歯科治療の方針を新たに決めなければいけないなど重要なことが幾つもあります。それは抜歯のときなどに限られたものではありません。使用する機器や材料、時には歯科治療自体の刺激が患者さんの体に負担となることさえあります。
 多くの種類の薬を処方されている場合は、何科で何をもらった、新しく薬を替えた、量が減った、休薬したなど、いろいろあって忘れてしまうこともあるでしょう。処方内容を適宜見せていただくことが望ましいとは思いますが、そこまででなくとも「だいたいの薬の内容」を教えていただければ参考になります。
 例えば「骨粗しょう症の薬」「産婦人科の薬」「肝臓の薬」「不整脈の薬」「血液をさらさらにする薬」「血圧の薬」「糖尿の薬」…といった具合です。また、血圧や血糖値のことを言われたが、まだ治療は始まっていないといった場合も教えていただければと思います。
 もう一点は、ペースメーカーをはじめ各種医療機器を装着されている場合やホルダー心電図の検査中の場合なども、電気を使う歯科治療器具が機器に影響することもあります。口頭ではなくメモなどでも結構ですので、治療の参考にさせてください。

7月23日掲載  舌の痛み
 「ストレス原因で違和感も」

 舌にヒリヒリ、ピリピリとした慢性的な痛みやしびれを感じて歯科を受診される方がいます。40代から50代の女性に多く、痛みは舌尖(せん)端、舌縁で左右両側にあることが多いようです。食事や会話中、何かに熱中しているときはあまり感じないことが多く、午前中よりも夕方や夜にかけて痛むことが多いようです。痛む部位が唇や歯肉、上あごにまで移動することもあります。
 歯科では、まず舌に腫れや炎症がないかを調べます。舌に直接接触している歯や補綴(ほてい)物、入れ歯などに破損や不良がないか、かみ具合などを調べ、破損や不良があった場合はその修正、歯石の除去などが行われます。炎症がある場合は薬で治療することができます。
 一般的歯科の治療で良くならない場合、大学病院や総合病院などとの連携が必要になります。舌がんや金属アレルギー、亜鉛不足や貧血など、ほかに病気がないことを確認した上で、舌の表面には異常がないのに原因不明の舌の痛みが慢性的に続く場合を「突発性舌痛症」といいます。
 この場合、痛みというより異常感を訴えることが多く、舌痛が起こる前や経過中に心理的、社会的ストレスが加わっていることがあり、心の病気として位置付けられています。舌の違和感を病気に結び付けてしまい、痛みなどに対して敏感になっている状態です。日常生活にさほど支障を来さない場合はあまり気にせず、ほかのことに熱中することが重要だとされています。

7月9日掲載  たばこの害
 「歯周病、口内のがん要因に」

 たばこを「おいしい」と感じるのは、たばこに含まれるニコチンなどが脳を刺激し、一時的に頭がすっきりしたり疲れが取れたような気がするほか、手持ちぶさたを解消する手段としての精神的な作用があるためです。
 たばこの煙の中には、200種類以上の有害物質が含まれています。このうち、ニコチンと一酸化炭素は体中の末梢(まっしょう)血管を収縮させて動脈硬化や心臓疾患の誘引となり、免疫力の低下や歯肉の血行障害によって歯周病が進行しやすく、治療しても治りにくい状態になってしまいます。その上、出血や腫脹(しゅちょう)などの炎症症状が表面化しにくいため自覚症状が少なく、重症化しやすい傾向があります。
 タールには60種類以上の発がん性物質が含まれており、舌や歯肉、頬(ほお)の粘膜に発症するがんの発症率が非喫煙者の3~30倍にもなります。
 喫煙のもう一つの大きな問題に、間接的に煙を吸ってしまう「受動喫煙」があります。たばこの煙にはフィルターを通して本人が吸い込む“主流煙”とそれを吐き出す“呼出煙”、そしてたばこの先から立ち上る“副流煙”がありますが、フィルターを通らない副流煙の方が有害物質の量は数倍も多く、受動喫煙によって周りの人たちも喫煙、本人以上の害を与えているのです。
 特に子どもは影響を受けやすく、喘息(ぜんそく)などの疾患のほか、色素の沈着による歯肉の黒ずみの割合も多くなります。平成15年に施行された「健康増進法」では、学校・官公庁・病院その他の公共の施設では受動喫煙を防止するための措置が義務化されています。
 自分の健康のためだけでなく、大切な家族や周りの人々の健康のためにも禁煙を考えている方はぜひ実行してはいかがでしょうか。

6月25日掲載  7、8カ月あたりといわれていますが、個人差が大きいですから、あまり神経質になる必要はありません。通常、1歳ぐらいまでには生えてきます。まれに生まれた時から生えていて、授乳に支障をきたすことがあります。
 乳歯の生える順番に決まりはありますか?
 下の一番目から生えてくることが多いですが、個人差があります。
 指しゃぶりは悪いことですか?
 精神的に落ち着いてよいという利点もありますが、長時間、長期的に指しゃぶりが続くと上下の歯がかみ合わなくなる「開咬(かいこう)」や、「上顎(じょ うがく)前突」などの歯並びの異常をきたします。2歳ぐらいでやめられるとよいでしょう。
 市販のおしゃぶりはいかがですか?
 指しゃぶり同様、長時間、長期的に続くと「開咬」や「上顎前突」などを引き起こしますから、4歳ぐらいまでにはやめさせたいものです。「4歳の誕生日が来たら必ずやめようね」とあらかじめ約束しておくのも一つの方法です。
 心配なことがあればかかりつけの歯科医に気軽に相談してみましょう。

6月11日掲載  多くのお年寄りが入れ歯になっているので、年を取ると歯がなくなるのが当り前と勘違いしている人がいるかもしれませんが、かかりつけの歯科医院で普段から適切なケアを受けていれば、年を取っても入れ歯になることはありません。
 過去の虫歯の経験はDMFTという指数で表します。D(虫歯の穴のある歯の数)+M(失った歯の数)+F(詰め物をした歯の数)の合計がDMFTです。20歳の日本人はDMFTが9.2、虫歯の経験が1人平均で9.2本あるということです。1本も虫歯のない人は、25人に1人となっています。
 虫歯のリスクコントロールが進んでいるスウェーデンでは、30年くらい前は日本とあまり違いがなかったのですが、指数は年々下がって3.6本となっています。1本も虫歯のない人は5人に1人です。
 実は、北欧では、虫歯の原因から治療に至る学問カリオロジーが発展してきて、虫歯になってしまった歯を削って詰める治療のほか、病気の原因を理解した上で治療をすることにも重点を移してきたのです。
 20歳で平均9.2本の虫歯が、その後、年を取るとどうなっていくのでしょうか?
 40歳ぐらいからFが減り始め、Mが増え始めます。FとMは年とともに増加し、70歳前に28本のうち半分以上の歯を失い、入れ歯になります。
 人が歯を失う理由は、虫歯が55.0%、歯周病が38.4%、その他歯牙(しが)破折や事故による外傷が6.6%となっています。
 患者さん一人一人の病気のかかりやすさ(リスク)を調べ、それを基にリスクをコントロールしてくれるかかりつけ歯科医院を持ち、さらに定期的に口腔(こうくう)チェックをしましょう。

5月28日掲載  少し前の話になりますが、イギリスのあるオークションにフランス皇帝ナポレオン1世のものとされる1本の歯が出品されたことがありました。
 鑑定人によると、ナポレオンがワーテルローの戦いで敗れた後の1816年に歯痛を患い、翌17年に流刑先のセントヘレナ島で抜かれた歯であるとのことです。
 写真を見てみましたが、特に大きな虫歯は見当たらず、犬歯と思われる長い根はそっくりしており、先の方には黒い歯石がたくさん付いていました。歯科医が見れば、それは重度の歯周病の歯と分かります。
 ナポレオンも晩年は、壊血病であるとか、ヒ素中毒だったのではないかとか、いろいろ説はあるようですが、おそらく、歯周病にも悩まされていたのではないでしょうか。
 よく「おれは昔からあまり虫歯にならない体質で歯科にも行ったことがないんだ」という声も聞きます。確かに、虫歯はないのかもしれませんが、歯周病が進行している場合もあります。歯周病はある程度進行しないと症状が現れないこともあり、厄介な病気です。
 また、重度であるほど、治療期間が長くなってしまうようですが、最近ではそれでも頑張って通われる方も多くなってきました。
 心配な方は一度歯科で相談されてはいかがでしょうか。

5月14日掲載  食品には生命を維持するための栄養機能、食事を楽しむ味覚・感覚機能のほかに体調を調節するという機能があります。特定保健用食品(トクホ)は体調調節機能に着目し、「身体の調子を整える」などの働きがある成分を含んだ食品で、効果や安全性が動物やヒトなどへの試験で科学的に証明され、健康に対してどのような機能を持っているかを表示することを国が許可した食品です。
 歯科に関係するものは、虫歯の原因になりにくい食品と、歯を丈夫で健康にする食品があります。
 前者の食品に含まれる成分には、パラチノース、マルチトール、エリストール、還元パラチノース、キシリトールなどの虫歯菌の栄養源になりにくい糖質と、虫歯菌の増殖を抑制する茶ポリフェノールがあります。
 後者の食品にはキシリトール、フクロノリ抽出物、リン酸水素カルシウム、リン酸オリゴ糖カルシウム、Cpp―ACp乳たんぱく分解物、pos―Caリン酸化オリゴ糖カルシウム、緑茶フッ素などがあります。初期虫歯である歯の表面のエナメル質脱灰を促進することなく、再石灰化を促進する成分が含まれています。
 当然のことですが、お口の健康を維持するためには正しい食生活習慣と歯磨きなどのセルフケアを身に付けた上で、定期的な歯科健診を受けることが重要です。かかりつけの歯科の先生と相談して特定保健用食品を上手に使い、歯の健康に役立ててください。

4月23日掲載  他人に不快感を与えているのではないか…と口臭に悩む人は多くいます。一言で「口臭」と言っても原因はさまざまです。簡単に香料入りのうがい薬に頼らないで、自分の口臭は何に由来するものか原因を知って、きちんと対応する必要があります。
 ニンニクなどにおいの強い食物やたばこのにおいなどを除いて考えると、口臭は「生理的な口臭」と「病的な口臭」とに大きく分けられます。
 「生理的な口臭」は誰にでもあるもので、一日の中で、起床時や空腹時、ストレスや緊張時には特に強く発生します。このようなときは唾液(だえき)の出が少なくなり、口が乾いて口の中の細菌が一時的に増殖して不潔になるためです。
 生活のリズムを整え、食事をきちんと取って唾液の分泌を良くし、歯磨きで清潔に保つようにすれば、生理的な口臭は解消するはずです。
 「病的な口臭」は歯周病や放置した虫歯から悪臭を発する場合がほとんどです。これは、歯科医院で適切な治療と指導を受けなければ治りません。
 また、舌の表面に白っぽい苔(こけ)のようなものが付着する「舌苔(ぜったい)」というのも口臭の原因となります。新陳代謝ではがれた粘膜上皮の壊れた細胞がたまったもので、口の中の細菌によって硫黄ガスに分解されるからです。介護口腔(こうくう)ケアが必要な高齢者によく見られます。
 これを取り除くには柔らかいブラシやヘラ状のものを使って軽くこするように清掃しますが、舌の表面を傷つけないように注意が必要です。これも歯科医の指導を受けてからやるのがいいでしょう。それでも改善しない口臭は鼻や喉(のど)、胃の病気が原因の場合がありますから、専門医の受診をお勧めします。

4月9日掲載  最近の医療の進歩は目覚ましく、その進歩に合わせて医療業種も細分化されています。細分化された職種がチームを組んで医療に当たることを「チーム医療」といいます。歯科でも日常臨床においてチーム医療が行われています。
 歯科診療所には通常、歯科医師、歯科衛生士、歯科助手、歯科技工士らが、その診療所の機能に合わせて所属し、協力し合って診療に当たっています。歯科医師は診療の主たる部分を担当し、適宜、各業種に指示・管理します。
 歯科衛生士は、主に口腔(こうくう)衛生に関する仕事を分担します。口の中の管理は非常に重要で、さまざまな疾患を予防するともいわれ、最近注目されています。そのほかにも、診療行為で歯科医師の目となり手となりサポートします。
 歯科助手は、歯科衛生士業務のうち、診療補助を主に担当する職種です。外回り的な仕事ですが、診療をスムーズに進めるためにはなくてはならない存在です。 
 歯科技工士は、主に口の中へ装着する差し歯などを作製します。この職種の人がいなければ、歯科医療の半分は成り立ちません。
 このように、さまざまな職種の人が協力し合って一つの診療行為が行われています。これらの職種に興味のある方は、お近くの歯科医院に相談してみてください。

3月26日掲載  歯周病とは、歯と歯肉の境にたまった歯垢(しこう)の中の歯周病菌が歯の周りの組織に炎症を引き起こしていく病気です。
 歯周病になると歯肉が赤くなり、血が出たり、腫れたりします。進行すると歯肉から膿(うみ)が出て、口臭がしたり、歯が動いてかみにくくなったりします。以下に歯周病のチェック項目を挙げます。
 ①歯磨きすると歯肉から血が出る②歯と歯の間に食べ物が挟まる③口臭がする④歯肉を押すとぷよぷよした所がある⑤歯肉が赤くなって腫れた感じがある⑥歯肉に痛みがある。
 いかがでしょう、6項目のうち2つ以上当てはまる人は、要注意といえます。
 歯周病の予防法ですが、ポイントが三つあります。一つ目は、「丁寧な歯磨き」により歯垢を除去することです。毎食後に磨くことが大切ですが、特に1日1回は10分間ぐらい時間をかけて念入りに行うことが大切です。
 二つ目は、「適切な生活習慣」です。不規則な食生活、口で呼吸したり歯ぎしりをする習癖、喫煙など歯周病を進行させる生活習慣を改善しましょう。
 三つ目は、「定期的な歯科健診」です。普段の歯磨きのチェックや、歯石を取るなど歯科医療の専門家によるクリーニングが必要なこともあります。

3月12日掲載  歯科には開口障害を呈する疾患が多数あります。開口障害とは、口が開かなくなることをいいます。その理由は、顎(がく)関節と咀嚼(そしゃく)筋が歯科領域で扱われる臓器だからです。
 顎関節とは、上あごと下あごをつなぎ留める関節で、耳の前にあります。咀嚼筋とは、物を噛(か)むために使われる筋肉で、あごの周囲にいくつか存在します。
 開口障害を起こす代表的な疾患は、親知らずが膿(う)んでしまう智歯周囲炎などの歯性感染症と顎関節症です。歯性感染症の場合、歯が痛くなったり歯の周 りが腫れたりして、比較的容易に判断がつきます。一方、顎関節症にはさまざまなものが含まれ、病態も多様化しているため、診断が難しいこともしばしばで す。
 最近になり、顎関節症と思われていた疾患の中に、咀嚼筋腱(けん)・腱膜過形成症という疾患が含まれていることが分かってきました。咀嚼筋の腱や腱膜が 過形成されることにより、咀嚼筋がうまく伸びなくなる疾患です。顎関節症の一型とよく似た症状のため、顎関節症として治療されたことも少なくありませんで した。現在では比較的診断も容易で、手術で症状が改善されることが多いのも分かっています。
 開口障害があり、通常の顎関節症の治療に反応しない場合、これらの疾患も疑い、お近くの歯科医院に相談してみてください。

2月26日掲載  通常歯を失った場合の治療法には「入れ歯」や失った歯の前後の歯を使う「ブリッジ」があります。
 「インプラント」とは歯の根の部分の代わりとなる人工歯根を埋め、再び噛(か)む機能を回復させる治療法です。歯を失ったらどこにでもできるというわけではありません。全身的な疾患、顎(あご)の骨の状態、歯ぎしりなどの習癖、歯磨きが上手にできるかなどさまざまな点を考慮することが重要です。
 また、未成年者のように成長期にある場合は、成長が終わるとされている時期(おおよそ18~20歳)まで待ってから行う方が良いでしょう。入れ歯のような煩わしさやブリッジのように前後の歯を削ることがないという利点もありますが、インプラントを埋め込む際の手術が必要であること、埋め込まれたインプラントが自分の顎の骨となじむ間、数カ月待たなければ次に進めないこと、保険診療では行うことができないため費用が掛かることなどの欠点もあります。
 また、完成したインプラントは定期的なチェックを行うことが重要となります。

2月12日掲載  残念ながら、ある程度歯を失ってしまうと、どうしても「部分入れ歯」を受け入れなければならない時期がやってきます。そんな時、誰しも「どうせいずれは総入れ歯になってしまうんだろうなあ」とあきらめの気分になるものです。
 しかし、決してそうではありません。できる限り失う歯を少なくして、一生総入れ歯にならずに「部分入れ歯」で食い止めることもできるのです。そのためには次のような点に注意が必要です。
 まず、作った入れ歯が「痛くない」「慣れてきた」「噛(か)みやすい」と思っていても、問題のないときほどかかりつけ医での定期的な微調整が必要です。それは毎日調子よく使っている間に、少しずつ噛み合わせの力の分散が変化しているからです。
 噛む力によって、入れ歯の減り、歯肉の痩(や)せ、バネのかかる歯の疲労はじわりじわりと大きくなっているのに、なかなか気付かないものです。ある日突然に入れ歯が破損したり、バネのかかっている歯がぐらついたりして驚きます。こうなる前に少なくとも半年ごとの定期診査を受け、入れ歯と残っている歯の微調整をしてもらうと長持ちします。
 入れ歯の清掃も、歯磨き剤などでゴシゴシ強くこすってはいけません。食器洗い用の洗剤で軽く洗い、バネの内面などは丁寧に小さなブラシで清掃しましょう。
 また、清掃中に風呂場のタイルや陶器の洗面台にうっかり落として破損してしまう方も多くいます。下に水を張った洗面器を置いたり、洗面台の栓をして水をためておくなどの予防策を習慣にしてください。
 もちろん入れ歯だけでなく残っている自分の歯の清掃も大事です。歯があちこち抜けると、歯ブラシの当て方は、意外に難しいものです。定期診査では入れ歯の調整と同時に、残っている歯の清掃の仕方も再度指導してもらうようにしましょう。

1月22日掲載  「歯がグラグラしてきたので、診てほしい」と歯科医院に来院する患者さんが少なくありません。
 “グラグラする歯”がかぶせものの歯(いわゆる差し歯)であった場合、かぶせた歯が土台から外れかかってグラグラしている可能性が高く、かぶせた歯をいったん外して付け直すか、新たに作り直すことになります。
 次に“グラグラする歯”が自分の歯であった場合、歯を支える骨などの歯周組織が弱って(歯周病が進行して)このような症状が出ることが多く、症状が軽く保存が可能な場合、「暫間(ざんかん)固定」という治療法がよく用いられます。これは読んで字のごとく、しばしの間グラグラする歯を固定して負担を減らし安静を保つための治療法であり、“グラグラする歯”を接着剤を使ったり、連結した仮の歯をかぶせたりしてその隣接する歯に固定する治療法です。数週間から数カ月間、固定したままかみ合わせの調整をしたり歯周病の治療をした後、固定を除去して“グラグラした歯”がどれくらい回復したかを確かめます。回復が順調であればよし、回復が不完全なら再度固定して回復を待つか、別の方法で永久固定をする場合もあります。いずれにしてもケース・バイ・ケースで病状を判断しながら治療をしていくことになります。
 自覚症状が軽いうちに治療をすることで「抜歯」という最悪の事態を防ぐことが可能になってきます。歯がグラグラしてきたら早めに歯科医院を受診することをお勧めします。

1月8日掲載  世界各国で歯の健康のために「キシリトール」が有効であると薦められています。
 キシリトールは代替甘味料の一つでイチゴやホウレン草など日常で口にする食物にも微量に含まれていますが、多くはシラカバやカシなどの樹木から抽出される成分で、砂糖と同等の甘味を持っています。
 キシリトールの利用法としては、砂糖の代わりに使ったり、キシリトール入りのガムやあめ(ノンシュガー)を食べるといった方法があります。
 口の中にいるミュータンス菌は、あらゆる糖を分解して酸を作ります。虫歯とは、その酸によって歯が溶けてしまっている状態をいいます。
 ところが、ミュータンス菌はキシリトールを分解できないため、酸を作れないのです。また、ミュータンス菌はキシリトールを吸収しているうちに他の糖を発酵させる力もなくなって発育しなくなり少なくなるのです。
 さらに長時間(3カ月以上)繰り返しキシリトールを食べていると口の中の菌の種類が変わり、ミュータンス菌でありながら虫歯をつくる能力のない性格のミュータンス菌が増えるらしいのです。
 キシリトールはあくまで虫歯予防の補助的方法ですので、食後早めのブラッシングは大切です。
 また、一度に大量に取るとおなかが緩くなる作用があるので注意しましょう。

12月11日掲載  歯の表面には歯垢(しこう)が沈着することはよく耳にされると思います。歯垢が軟らかいうちは十分なブラッシングで除去できますが、長期間歯垢が除去されず硬くなってしまったり、歯石になってしまうとブラシでは取れませんので、機械により除去するようになります。また歯石がそれほど沈着していなくても、歯の表面の汚れの原因の「膜」を取り除くことにより菌を付着しにくくさせます。これを「スケーリング」といいます。
 歯垢や歯石は簡単にいえば細菌の塊でもあります。したがって深い部分(根の面)に歯石などがある場合、初期の時点からそれを無理に除去するとかえって歯周疾患の症状を悪化させることもあるため、まずは浅い部分のスケーリングをした後、あらためて麻酔や表面麻酔をして深い部分の歯石などを除去します。これをSRp(スケーリング・ルートプレーニング)といいます。場合によっては不良な歯肉の掃除(掻爬(そうは))を行うこともあります。
 それでも症状が治まらない場合は、外科的にもう一歩踏み込んだ治療の必要性が出てきます。
 歯石などの除去に当たっては除去自体が歯周組織に刺激になり、一時的に歯肉を腫れさせてしまうことがまれにありますので、基本的に1回で全部の歯にスケーリングすることは残存歯が少ないとき以外はありません。
 そして虫歯の治療とは違い、歯周組織の症状を見極めながら治療を進めていきますので「あと何回」で終了できるとは断言できません。少しゆっくりでも良いですから「症状安定」までは定期的に経過を追うように心掛けてください

11月27日掲載  人類は約500万年前に猿人としてチンパンジーの類と分かれて、直立二足歩行によって独自の道を歩んできました。そして時代とともに猿人→原人→旧人→新人と進化(変化)していきます。その進化の中で明らかなことは脳の発達ですが、歯や顎(あご)はどうなってきたのでしょうか。
 二足歩行により手が自由に使えるようになり、指先からさまざまな刺激が脳に伝わり、情報や知見がもたらされ脳が発達しました。その中で人類の偉大な発見は、火と道具の使用といえるでしょう。
 それらにより、食生活が変わってきました。食べ物を調理することができるようになる、つまり食物の消化の第1段階を手で調理するというステップを取ることによって、人類の噛(か)む力は弱くなってきました。当然ながら使う部分は発達し、使わない部分は退化する過程をたどることになります。
 そのような経過を経て、現代では親知らずが生えない、あるいは欠如する人が増え、また前歯や小臼歯がないという人もいるなど、歯は退化傾向にあるといえるでしょう。人類の進化型(あるいは退化型といってもよいかもしれません)の行き先を考えた場合、著しく歯の数が少ない人類の誕生の可能性も否定できないかもしれません。
 私たち日本人の平均寿命は80歳を超えるようになってきました。これは、脳、言い換えれば知の力によるものといってよいかと思います。しかし、その代償として歯や顎は退化してきました。
 歯の平均寿命は、歯の種類により異なりますが50年程度です。歯の平均寿命をできるだけ人類の平均寿命に近づけることが、将来にわたって人類が豊かな食生活と強い生命力を維持していくために大切なことだと思われます。

11月13日掲載  皆さんの周りに障害のある方はいらっしゃいますか?
 縁あって養護学校の子どもたちと触れ合う機会がありました。障害はさまざまで、軽度の場合は開業医でも治療可能ですが、心臓疾患などがある場合は、開業医では予防治療にとどまり、その他の治療は小児科、歯科を伴う病院でないとできない場合もあります。
 子どもたちは感情を少し上手に表現できないだけで、何ら変わりはありません。決して特別な子どもたちではありません。初めは意思の疎通がうまくいかないこともありますが、これは初対面であれば皆同じです。
 何回か通院して来ると彼らの意思が伝わってきます。彼らはこだわりが多いことがあり、音が苦手な子、スタッフの立ち位置まで指定する子、私たちに「お疲れさま~」と声を掛けて帰る子など性格はさまざまですが、みんな目がキラキラしているところは共通しています。虫歯の治療や自宅での歯磨きをフォローするため、将来のための社会勉強で子どもたちが通院しています。
 治療後のメンテナンスはどなたでも必要ですが、薬を服用していて歯肉がはれたり、自宅でのケアだけでは難しいケースも多いため、メンテナンスがより必要となります。
 今回は障害者と書きましたが、これに代わる言葉が見つからないものかと苦難しました。彼らは決して障害者ではありません。公的に使用される言葉も変更されないかと望むところです。

10月23日掲載  歯医者というと真っ先に思い浮かぶのが、独特の歯を削る音と歯肉に注射をする場面という方が多いのではないでしょうか。他科に比べて、通常の治療の中で麻酔の注射をする頻度が多いことは事実です。
 歯科疾患は、薬だけで完治するものが圧倒的に少なく、「削る」「抜く」など何らかの「外科処置」が必要になるため、治療自体の痛みを抑える麻酔が時として必要になります。しかし、全身麻酔を行って治療するというたぐいのものでもなく、必然的に「治療のときだけ、その部分だけ効いてくれる局所麻酔=麻酔の注射」という構図が出来上がってしまいます。
 さて、「注射」という言葉自体が「痛い・恐い」というイメージにつながっていますが、基本的に注射の際の痛みは①刺入時②麻酔薬の注入時③「注射をされた」という心理―が挙げられるのではないでしょうか。
 ①については表面麻酔を塗ることと、最近では細く「切れのいい」注射針が出てきたことにより、刺入時の痛みを軽減できるようになりました。
 ②については体温とほぼ同じ温度の麻酔薬を、一定の速度で、ゆっくり注入する技術が必要になりますが、歯科医師側はこのことを第一に配慮して麻酔を打つようになりました。また、これを補助するため電動注射器を採用するところも多くなってきたようです。
 ただ、麻酔をされた後の何か硬くなったような、しびれたような変な感覚が大なり小なりある点は全くゼロにはできていません。2時間ぐらいは不自由なこともあるかと思います。
 以上の内容で③のイメージが軽減していただけたらと思います。そして恐いというイメージを少しでも軽減するため、いろいろと主治医の歯科医師と話をしてはいかがでしょうか。

10月9日掲載  口腔(こうくう)内の感覚は、髪の毛1本でも異物と感じ取るほど繊細です。口腔内の状況をなるべく早く、正確に判断するため、感覚の鋭いセンサーが分布しています。
 食べ物を摂取することは、活動するためのエネルギーや体を作る栄養を取り込むため毎日欠かさず行う大切な行為です。
 しかし、食べ物自体は味、食感などさまざまな特色があり、体にとっては良くないものを取り込んでしまう可能性も持っています。体の中に入ろうとする食べ物を、視覚、嗅覚(きゅうかく)、触覚、温度感覚、聴覚など複合的に安全か危険か判断し、もし食べ物がひどく見た目が悪かったり嫌なにおいがすれば、口に入れません。食べ物の入り口となる口とその周囲には多くの感覚器官が集中し、食べ物の性質を十分に確認することを可能にしています。口腔内の大きさは体全体からみればとても小さいものですが、口で感じる食感や温度感覚は、人間にとってとても大切なことです。
 口腔内のセンサーの一つに、歯の根元と骨の間に存在する歯根膜という部位があります。これは食べ物を食べたときに咬合力(こうごうりょく)が直接骨に伝わらないようにするため、ショックを吸収するトランポリンのような役目をしています。この歯根膜の感覚が鋭いことにより、食べ物の硬さや食感を感じ取ることができます。もしも歯を抜いた場合、歯根膜は一緒になくなり、センサーが少なくなってしまうことにより、かんだ感覚が衰えてしまいます。入れ歯を使用すると食感が変わってしまう大きな理由はこのためです。
 歯を失わないようにすることはこういった感覚からみても重要です。歯をなるべく失わないように、また、おいしく食べられるようにプラークコントロールを大切にしましょう。

9月25日掲載  入れ歯を使っている方は多いと思いますが、お手入れは大丈夫でしょうか?
 入れ歯の汚れ(デンチャープラーク)は、口の中の粘膜の炎症を引き起こしたり、周囲の歯の虫歯や歯周病を悪化させたりします。汚れを取り除くには、水で流しながらブラシでこすって清掃するのが一般的です。歯ブラシを使っても構いませんが、義歯用のブラシを使うとより効果的に清掃できます。人工歯の境目や金属のバネの裏側など細かいところに汚れが残りやすいので、特に注意して磨いてください。
 このとき、ブラシに歯磨き剤は付けないでください。歯磨き剤には研磨剤が含まれているため、入れ歯がすり減って合わなくなります。水だけでもよいですが、ブラシで洗う際には、食器洗いに使う洗剤を薄めて使用してもよいです。
 きれいに洗った後は、水に漬けて保存するのですが、入れ歯洗浄剤に漬けておくと、消毒、殺菌効果が得られます。その際は、まずブラシで洗浄してください。入れ歯洗浄剤だけでは十分な効果が得られません。また、毎日洗浄剤に漬ける必要はありません。3日に1回くらいで十分です。
 メガネ洗浄器のような超音波洗浄器もありますが、これも同様にブラシで洗浄した後で使用してください。
 毎日お手入れをしていても、人工歯の表面が着色してきたり、歯石のような硬い汚れが付いてしまうこともあります。このようなときには、歯科医に相談してください。

9月11日掲載  乳歯が生え変わり、すべての歯が永久歯になった段階を「永久歯列期」といいますが、これは第二大臼歯(別名12歳臼歯)の萌出(ほうしゅつ)完了をもって完成します。年齢的にはだいたい12歳以降になります。
 その後、第二大臼歯の後ろに親知らずという名でよく知られる第三大臼歯が17歳以降に生えることが多いのですが、生まれつき欠如している人や上下左右4本存在する人など生え方のパターンはさまざまです。
 現代人の場合、あごの発育が悪いため萌出が困難な場合が多く見られます。正常に萌出してくれれば抜歯の必要はありませんが、正常に萌出せず半埋伏あるいは水平に埋伏している場合は周囲に炎症が起きやすく、多くは抜歯の適用となります。抜歯の時期については、20歳前後の組織の修復能力の高い時期がよいと思われます。
 また、親知らずはトラブルメーカーとしても知られ、歯並びにも悪影響を及ぼす場合があります。例えば親知らずが原因で前歯がかみ合わなくなったり、第二大臼歯を傾斜させ奥歯がきちんとかみ合わなくなったりして、顎(がく)関節症を誘発する場合もあります。
 このような場合は、抜歯の適用となりますが、あごの発育が悪く上あごの親知らずの抜歯が困難な場合は、手前の第二大臼歯を抜歯して親知らずと入れ替えることもあります。

8月28日掲載  あるブログに、次の文言が載っていました。
 「年齢という漢字。歳(とし)を表す令の字の隣に、寄り添うように歯の字があります。歳を重ねるごとに歯が大切になるのだよ、という先人の教えです」
 なるほど…「歳を重ねるごとに歯が大切」とは、患者さんからもよく聞かれる言葉ですが、それ以上に「令に歯が寄り添う」という表現に心が動かされました。自分の歯に対する患者さんの思いはさまざまで、長くお付き合いしている私たち、かかりつけ歯科医にも、それなりの重さを伴って伝わってくるものです。
 主治医が検査結果から「この歯はどうも長くないなあ…」と判断し、説明をして患者さんに病態を認識してもらったとしても、患者さんから「それでも、もう少しなんとか…」と強く請われると、主治医はその歯の寿命をできる限り先延ばしする対策を立てなければなりません。しかし「いつまで持ちますか?」と問われても、正確な未来予測は難しいのが人の歯の寿命です。噛(か)み合わせの状態と力、食べ物の好み、生活習慣などその歯を取り巻く、ごく個別的な環境が複雑に絡み合うため予測をさらに困難にしているからです。そのため患者さんにも「なんとかするため」の生活改善の努力と協力をしてもらうことになります。
 こうした医・患共同の「寄り添い」作業が功を奏して、あきらめかけていた歯が、意外にも長持ちしたということが少なくありません。「こんなことを言ったらわがままな患者だと思われないかなあ…」とつい遠慮しがちですが、「思いを伝える」ことは、「わがままを言う」ことではありませんから、心を開いて主治医に話してみることが大切です。納得の歯科医療は、患者さんと歯科医、お互いの“寄り添い”から始まります。

8月14日掲載  大人の歯に比べると、子どもの歯は虫歯になりやすいものです。乳歯や生えたばかりの永久歯は歯の表面が未熟なため、酸に弱く、虫歯になりやすいのです。このため乳歯の生え始めの1~2歳、永久歯の生え始めの5~8歳くらいは一生の中で最も虫歯になりやすい時期です。この時期を無事に乗り切ることができれば虫歯ゼロにも手が届くのです。
 歯が生えた直後の口の中の環境にフッ素イオンがあると、酸に非常に強いフルオロアパタイトという結晶ができて、硬いエナメル質になります。フッ素は、お茶や紅茶、魚、海草、みそ、塩にたくさん含まれています。フッ素は歯を強くするだけでなく、細菌や酵素の働きを抑制し細菌が酸を作りにくくする働きを持っています。
 また、年をとると歯肉が少し下がって歯根が露出してきますが、露出した歯根は子どもの歯と同じくらい酸に弱く、虫歯になりやすい部分です。露出したばかりのときは、エナメル質で表面が守られていないので歯が染みます。
 成熟した大人の歯はそう簡単には虫歯にはなりません。大人の歯が虫歯になるきっかけは、生え始めの歯質が弱いときにできることが多いのです。
 虫歯になりやすい部分は①奥歯のかみ合わせの面にある溝②隣り合う歯と歯の間③奥歯の外側にある溝の3カ所です。
 虫歯のない大人の歯にするために、リスクの集中する時期に十分に注意して虫歯ゼロになりましょう。

7月24日掲載  歯周病は、網膜症、腎症、神経障害、心筋梗塞(こうそく)、脳梗塞に次いで、糖尿病の第6番目の合併症といわれ、糖尿病が歯周病を引き起こすことはよく知られています。逆に、歯周病による慢性的な炎症が続くとTNF―αという物質が増加し血液中に流れ込んで血糖をコントロールしているすい臓のインスリンの働きを妨げるようになります。そうなると血糖が上昇し糖尿病になることが分かってきました。
 世界では4秒に1人が糖尿病になり、10秒に1人が糖尿病のため亡くなっています。日本の患者数は890万人、予備群も1320万人います。国連は2006年、糖尿病が脅威ある疾患であるという決議をしました。問題は合併症で網膜や腎臓の病気、神経の障害のほか、心臓や足の動脈硬化による閉塞性の病気が起こりやすくなります。
 糖尿病の人は糖尿病でない人に比べて、歯周病菌の量が多いという報告もあります。また、歯周病が重症な人は歯周病でない人に比べて、血管の動脈硬化が進みやすいことも分かってきました。
 糖尿病の人の歯石を除去してブラッシングを指導するだけで血糖値が下がり、さらに、抗生物質を併用して歯周病を治療した場合は、もっと下がるという報告があります。
 歯周病をケアすると糖尿病が改善される、つまり歯周病が糖尿病に影響を与えるという相互の密接な関係があるのです。
 歯周病の原因は、歯と歯ぐきの間にたまった歯垢(しこう・プラーク)の中にいる歯周病菌。歯周病菌が歯ぐきにダメージを与え、少しずつ歯を支える組織を破壊していきますが、痛みなど自覚症状がないため、気付かないうちにひどくなるケースが多いのです。歯科医院で定期的にチェックしてもらい、必要な時には治療を受けることが大切です。

7月10日掲載  35年近く前のこと。「リンゴをかじると歯ぐきから血が出ませんか」というテレビCMが話題になりました。「歯槽膿漏(しそうのうろう)にならないよう、しっかり歯を磨きましょう」といった内容でした。「歯槽膿漏」は歯ぐきから膿(うみ)の出る病気という意味ですが、今では「歯周病」と呼ぶようになっています。
 歯周病は、歯と歯ぐきの間の溝(歯肉溝)に細菌の塊である歯垢(しこう)(プラーク)がたまり、歯周病菌が繁殖して炎症が起こることから始まります。歯ぐきが炎症で腫れると歯肉溝がポケット状に深くなっていきます(歯周ポケット)。そして、より深くなった歯周ポケットを中心にして炎症が広がり、ついには歯を支える土台である骨(歯槽骨)が破壊されてしまうのです。
 若い人などは、「歯周病? オヤジの病気でしょう?」と思うかもしれません。ところが、それは大きな間違い。早い人では、10代からこの病気にかかり始める場合もあるのです。
 歯周病は歯肉炎と歯周炎に分けられますが、歯科疾患実態調査によれば、歯周病の初期症状である歯肉炎には、すでに15~24歳で50%の人がかかっています。歯周炎は15歳から増え続け、45~54歳では40%以上になります。
 歯肉炎と歯周炎を合わせると35~44歳の人の85%、45~54歳の実に88%の人が歯周病にかかっているという、恐るべき結果となっています。
 歯周病を治す決め手は、何といっても早期発見・早期治療です。どんなささいなことでもまずは歯科医院の門をたたいてみましょう。歯周病は単に歯と歯ぐきの病気ということだけではなく、あなたの命を脅かす全身の病気と関連しているのです。

6月26日掲載  乳歯列の歯列不正や口唇を閉じにくくすることの原因の一つに指しゃぶりが挙げられますが、乳歯の時期、特に1歳くらいまでの指しゃぶりは乳幼児の自然な行動です。
 しかし、3歳を過ぎても指しゃぶりをしている子どもがまだ多くいます。指しゃぶりにはその経緯から大きく二つのタイプに分けられます。一つは、乳幼児からずっと継続している場合です。出生後数カ月から始まった指しゃぶりがやめられずに3歳を過ぎても継続して習癖化してしまっているタイプです。もう一つは指しゃぶりは一度なくなったにもかかわらず、弟や妹の出生や転居などによる環境の変化によって再び復活しているタイプです。
 3歳を過ぎた子どもは友達と遊ぶ機会が増えるに従って社会性が発達し、指しゃぶりが見られなくなっていきます。活発に遊んだ方が指をしゃぶっているよりも楽しいことが分かってくるからです。また、他人を意識して指しゃぶりを他の子どもに見られたくないという感情も出てきます。
 このような子ども自身の自覚が出てくると適当なきっかけとなり指しゃぶりは見られなくなります。また、指しゃぶりの影響を分かりやすく説明してあげると自分からやめることもあります。
 しかし、一度やめて再び指しゃぶりを始めた子どもに対しては、再度始めたときの育児背景を十分に考慮して対処する必要があります。指しゃぶりはやめても他の習癖が出る場合があるのでやめさせ方にも十分な注意が必要です。

6月12日掲載  唾液(だえき)には口の中に潤いを与えたり、食べ物と混ざり消化を助けたりする大切な役割があります。
 しかし、歯の治療中には治療の質を低下させる邪魔者です。確実に唾液を取り除くため、かぶせ物を歯に接着する前や、歯と同じ色のプラスチックの詰め物をする前に、歯の表面を水洗いしアルコールでふいたりして念入りに乾燥させます。けれども、歯科医が目を離した間に患者さんは歯をなめてしまうことがあります。歯の表面が唾液で汚染されると、銀歯や詰め物が取れやすくなる原因になるので注意しましょう。
 根の治療(神経を取る時と、神経をすでに取ってある根の治療のやり直しの場合がある)をしている最中に歯の中に唾液が入ることもよくありません。唾液の中には、歯肉を腫らしてしまう悪い細菌がたくさんいるからです。根の中に唾液が入ることで、治療を終えたはずの歯に再度、痛みや腫れを起こすことがあります。根の治療中に唾液が入らないように、綿を丸めたようなもので舌やほおの肉をよけているのはそのためです。
 唾液を排除する努力を無駄にせず、治療の質が向上し、歯を長持ちさせるには、患者さんの協力も大切です。

5月22日掲載  虫歯とは、プラーク(歯垢(しこう))の中の虫歯菌が食べ物の中の糖分を栄養にして酸を発生し、歯の弱い部分を溶かしていく病気です。虫歯をつくる三つの原因、甘い食べ物(糖分)、虫歯菌、質の弱い歯が重なったときに、虫歯が進んで歯に穴を開けていきます。今回は、虫歯の成り立ちと予防について説明します。
 虫歯の成り立ちについてですが、私たちの口の中には多くの細菌がいて、その中の虫歯菌(ミュータンス菌)が糖分を養分としてねばねばした物質をつくります。その中でさらに虫歯菌などが増殖し、プラークを形成します。
 飲食をすると、その直後に虫歯菌が糖分を栄養にして酸をつくり、プラークが酸性になります。この時に歯の表面のカルシウムやリン酸などのイオンが奪われ、歯を溶かしていく脱灰反応が起きます。
 ただそればかりではなく、だ液の働きにより酸が中和され、カルシウムやリン酸イオンが再び歯の表面に戻ってきます。この反応を「再石灰化反応」といいます。毎回の飲食後に、脱灰と再石灰化の反応が口の中で繰り返されますが、脱灰が優勢になって再石灰化が追いつかなくなると、歯の質の弱い部分から実質的な欠損をつくり、いわゆる穴の開いた虫歯になります。つまり、「糖分の摂取量」「虫歯菌の存在」「歯の質の弱さ」が虫歯の成り立ちの三大要因です。
 穴の開いた虫歯は自然に元には戻りません。早期に発見し、治療することはもちろん大事ですが、虫歯にならないこと、すなわち予防がとても大切です。
 そこで三つの要因に対する予防、つまり、甘い飲食物をとることを控え(シュガーコントロール)、歯磨きでプラークを取り除き(プラークコントロール)、そしてフッ化物(フッ素)を使って歯を強くすること(歯質の強化)でバランスのとれた虫歯予防となるのです。

5月8日掲載  先日、歯ぐきが腫(は)れて痛いという患者さんが来院しました。口の中は、切れたような傷があるだけで、腫脹(しゅちょう)は見られませんでした。話を聞くと、最近、歯ぐきからの出血が気になってきたので、歯周ポケットも磨けるという歯ブラシを使い始めたとのこと。実際に歯磨きをしてもらうと、歯ブラシをぎゅっと握りしめ、大きく、ゴシゴシと力を入れて磨いていました。これでは、歯周ポケットの中を清掃するどころか、とがった毛先で歯肉を痛めます。歯ぐきの傷は、歯ブラシの誤った使い方によってできたようです。
 このような歯ブラシのCMがTVで流れていますが、毛先で歯周ポケットの中の汚れをかき出すシーンの後に、俳優さんが歯磨きをしているシーンが出てきます。多くの人は、俳優さんの顔の方に注意が向きますが、この時の歯ブラシの持ち方、動かし方をよく見てください。鉛筆を持つように歯ブラシを持ち、小さく小刻みに動かして、しかも同じ所をずっと磨いています。歯周ポケットのブラッシングは難しく、自己流ではなかなかうまくいきません。一度、歯科医院で磨き方を見てもらってください。
 使用目的の限られた歯ブラシや補助器具が、数多く出回っています。簡単な器具ゆえに自己流で使ってしまいがちですが、正しい使い方をしないと十分な効果が上がりません。

4月24日掲載  矯正治療には、数多くの治療方法や装置があります。歯並びやかみ合わせにはさまざまな状態がありますが、その状態に合わせて治療方法を選択するのです。治療方法の決定は、精密検査で得られる結果を基に、歯並び・かみ合わせの状態を専門的に詳細に分析することで割り出します。また、成長期と成人でも大きく違ってきます。
 治療に際して重要なのは、歯並びやかみ合わせの問題点に対して有効な治療方法を選択することにあります。それは、かみ合わせの状態によってふさわしい治療方法があるからです。それを見誤ってしまうと、治療期間がかかるだけでなく良いかみ合わせにならないこともあります。
 例えば、成人の矯正治療で最も一般的な装置はマルチブラケットと呼ばれるもので、歯の一本一本にボタンのような金具を接着して針金の力で歯を動かすものですが、これが選択されるのは、現在最も効果的かつ効率的に治療ができ、ほぼすべてのかみ合わせの治療に幅広く適用できるからです。見た目を気にされる方のために歯の裏側に付けるブラケット装置もあります。
 また、その他の装置としてマウスピース矯正や床矯正などがありますが、あくまでそれらは装置の選択肢の一つにすぎず、適応症を見極めることが重要となります。良い治療を受けるためには、それぞれの利点や欠点を比較検討しながら、最も納得のいく治療法を矯正治療担当医と相談して決定することが重要なのです。

4月10日掲載  歯を失ったとき、従来は取り外しの「義歯」か、両隣の歯を削って固定した「ブリッチ」で対応してきましたが歯科技術・材料の発達につれ、「インプラント」という治療法が選択できるようになってきました。
 インプラントとは、人工の歯の根を顎(あご)の骨の中に外科的手術で埋め込みます。人工根を骨に固着させてから歯の頭部分を作って1本の歯を完成させるものです。歯を削らずに人工歯を植立させることができるという点が最大の利点で画期的な治療法といえます。
 一方、欠点は外科的手術が必要だという点です。顎の骨の周囲は筋肉、神経、血管が複雑に入り組んだ狭い場所ですから、手術は当然危険を伴います。手術を安全・確実にするため、歯科医は術前の診査・診断を厳密に計画します。患者さんの全身状態は? 骨密度は? 骨の領域は確保できるか? 歯周病の進行は? 噛(か)み合わせは?など細部にわたります。顎の骨の中を立体的に把握する必要もあるので、コンピューター断層撮影(CT)が可能な病院に出向いてもらうこともあります。重要な検査ですから、面倒がらずに協力してください。
 こうした検査結果を全体的に精査した上でインプラント手術が可能かどうかを決めるのです。希望すれば誰でもできるものではありません。
 歯科医は分かりやすく説明しますから、患者さんは、よく聞いて理解することが大切です。この治療は保険外なので高額な費用も掛かりますから、不安な点は何でも先生に質問し納得した上で決断してください。
 最後にインプラント治療の成功の鍵は「術後の管理」にあるといっても過言ではありません。術後、先生から指定された定期診査日は必ず守りましょう。医師と患者さんとの信頼と約束が守られてこそ、より良い治療が成功したといえるのです。